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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)70132号 判決 1999年3月29日

長野県茅野市宮川一一四一七番地

第一ないし第三事件及び第五事件原告兼第四事件被告

株式会社ミハマ製作所

(以下「原告」という。)

右代表者代表取締役

浜平

右訴訟代理人弁護士

田中齋治

五味正明

アメリカ合衆国マサチューセッツ州カーライル

リッチフイールド ドライブ九六

第一ないし第三事件及び第五事件被告兼第四事件原告

久保山信義

(以下「被告」という。)

右訴訟代理人弁護士

西川紀男

第一ないし第四事件右訴訟復代理人兼

第五事件右訴訟代理人弁護士

佐々木清得

主文

一  原告と被告間の東京地方裁判所昭和六〇年(平ワ)第一七三五号約束手形金請求事件について、同裁判所が昭和六一年三月五日に言い渡した手形判決を認可する。

二  原告と被告間の東京地方裁判所昭和六一年(平ワ)第一四四六号約束手形金請求事件について、同裁判所が昭和六一年一一月二八日に言い渡した手形判決を認可する。

三  原告と被告間の東京地方裁判所昭和六二年(平ワ)第一〇二二号約束手形金請求事件について、同裁判所が昭和六二年一一月二五日に言い渡した手形判決を認可する。

四  被告は、原告に対し、金五七二〇万円及び内金一四三〇万円に対する昭和五九年六月一二日から、内金一四三〇万円に対する同年七月一一日から、内金一四三〇万円に対する同年八月一一日から、内金一四三〇万円に対する昭和六一年四月一一日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

五  被告の原告に対する請求を棄却する。

六  第一ないし第三事件の異議申立後の訴訟費用、並びに第四及び第五事件の訴訟費用は被告の負担とする。

七  この判決は、主文第四項及び第六項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

(第一事件)

被告は、原告に対し、金一億七一六〇万円及び内金一四三〇万円に対する昭和五九年九月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一〇月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一一月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一二月一〇日から、内金一四三〇万円に対する昭和六〇年一月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年二月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年三月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年四月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年五月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年六月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年七月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年八月一〇日から、各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

被告は、原告に対し、金一億五七三〇万円及び内金一四三〇万円に対する昭和六〇年九月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一〇月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一一月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一二月一〇日から、内金一四三〇万円に対する昭和六一年一月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年二月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年三月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年五月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年六月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年七月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年八月一〇日から、各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(第三事件)

被告は、原告に対し、金九三三〇万円及び内金一四三〇万円に対する昭和六一年九月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一〇月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一一月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年一二月一〇日から、内金一四三〇万円に対する昭和六二年一月一〇日から、内金一四三〇万円に対する同年二月一〇日から、内金七五〇万円に対する同年三月一〇日から、各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(第四事件)

原告は、被告に対し、金一億円及びこれに対する昭和六三年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第五事件)

主文第四項と同旨

第二  事案の概要

一  原告と被告及び株式会社クボヤマ(以下「クボヤマ」という。)とは、右当事者間の通常実施権設定契約を合意解約し、被告及びクボヤマが、右通常実施権設定契約の契約金として受領した金員のうち五億〇八〇〇万円を原告に返還する旨合意し、被告は原告に対し、合計五億〇八〇〇万円分の約束手形三六通を裏書交付した。

原告は、被告に対し、第一ないし第三事件において、右約束手形のうち、順に合計一億七一六〇万円、合計一億五七三〇万円、合計九三三〇万円の手形金の支払を請求し、また、第五事件において、呈示期間内に支払のための呈示がなされなかった約束手形につき、原因債権である合意解約に基づき五七二〇万円の契約金返還の請求をした。

被告は、原告に対し、<1>秘密保持に係る念書に基づく損害賠償として合計一二億円、<2>債務不履行による損害賠償として合計一二億八五〇〇万円、<3>商標使用料として九八〇〇万円の請求権があると主張して、右各債権と原告主張の各債権との相殺を主張するとともに、第四事件において、主位的に<1>の損害賠償債権中の一億円、予備的に<2>の損害賠償債権中の一億円の請求をした。

二  前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)

1  約束手形

(一) 原告は、別紙約束手形目録一ないし三記載の約束手形を所持している。

(二) 被告は、右手形に、拒絶証書作成を免除して、裏書をした。

(三) 原告は、右手形を、呈示期間内に支払場所に呈示した(第一事件につき甲一ないし三)。

2  合意解約

原告は、別紙契約一覧表の当事者欄記載の各当事者と、同表の契約締結日欄記載の各日に、同表の契約金欄記載の各契約金を原告から各当事者に支払う約定の下で、右各当事者が原告に対し、同表の発明の名称及び出願番号欄記載の各発明につき、通常実施権を設定する契約を締結し、原告は右各当事者に対し、右各契約金を支払った。

原告と被告及びクボヤマとは、昭和五八年一二月五日、右各契約を、<1>被告及びクボヤマは、原告が支払った契約金合計六億三五〇〇万円のうち一億二七〇〇万円を違約金として取得する、<2>被告及びクボヤマは、原告に対し、五億〇八〇〇万円を返還する、と合意して解約した(以下「本件合意解約」という。)。

被告は、右同日、原告に対し、株式会社サニー(以下「サニー」という。)振出の、右1(一)記載の約束手形を含む約束手形三六通(手形金額合計五億〇八〇〇万円)(以下一括して「本件手形」という場合がある。)を裏書交付した。

3  商標使用料

原告と被告とは、昭和五九年五月一日、被告が原告に対し、登録商標を「エアビック」とする商標権(以下「本件商標権」という。)につき専用使用を許諾し、その使用料を一億円とし、毎月一〇〇万円に分割して支払う旨の契約を締結した。原告は二回分二〇〇万円を支払ったのみで、残金の九八〇〇円は支払っていない。

三  争点

1  本件手形の裏書交付により、被告債務は履行されて消滅したか。

(被告の主張)

昭和五八年一二月五日、原告と被告及びクボヤマとは、本件合意解約をしたが、その際、被告及びクボヤマが原告に対し、五億〇八〇〇万円を、サニー振出しの約束手形三六通を交付して返済する旨合意した。被告は原告に対し、本件手形三六通を裏書交付した。よって、右合意解約に伴う被告の債務は消滅した。

(原告の反論)

本件手形は、五億〇八〇〇万円の支払に代えて交付されたのではなく、右支払のために交付された。債務は消滅していない。

2  本件合意解約に基づく債務は、時効により消滅したか。

(被告の主張)

本件合意解約に伴う五億〇八〇〇万円の返還債務の履行期は、昭和五八年一二月五日であり、右債務は右履行期から五年の経過により時効消滅した。被告は、平成元年九月二八日の併合前第五事件口頭弁論期日において、右時効を援用する旨の意思表示をした。

(原告の認否及び反論)

被告の主張は争う。

原告は、昭和六〇年九月六日に第一事件を訴訟提起しており、消滅時効は完成していない。

また、本件合意解約の内容は、昭和五九年四月から昭和六二年二月まで毎月一〇日限り各一四三〇万円及び昭和六二年三月一〇日限り七五〇万円に分割して支払うというものである。この内、第五事件は、履行期を昭和五九年六月一一日ないし昭和六一年四月一〇日とする請求権に関するものであるところ、原告は平成元年六月七日に第五事件を訴訟提起しており、消滅時効は完成していない。

3  秘密保持に係る念書に基づく損害賠償請求権は発生しているか。

(被告の主張)

(一) 原告と被告とは、昭和五七年一一月一〇日、減圧平衡乾燥機の製造に係るノウハウに関し、原告あるいは原告の役員・従業員が秘密を漏洩して第三者が乾燥機その他の機器を製造・販売した場合、原告は被告に対し、一機種(用途・性能・容量のいずれかが異なるごとに、一機種とする。)ごとに、一億円及び販売又は製造台数に市販価額の五パーセントを乗じた金額を合算した額を損害賠償として支払う旨合意した。

(二) ノウハウの具体的な内容は次のとおりである。

(1) 乾燥機のチャンバーに関するもの

<ア> 減圧・発熱・消音・風量等に関連して、使用すべきチャンバーの外壁・内壁の材質・強度・厚み等

<イ> 外壁・内壁における吸・排気の各孔の位置・大きさ・数量及び右吸・排気のための回転体(循環用モーター)の位置・出力関係

<ウ> 外壁と内壁との間の熱移転のための装置

<エ> チャンバーの大・小と循環用モーター・起熱モーター熱交換器との機能上の関係と位置関係

<オ> チャンバーと各種危険防止装置及びコンピューター制御装置との関係

(2) 起熱装置(モーター)に関するもの

<ア> モーターに取り付けられたペラ(ファン)の形状・大小

<イ> モーターの消音・冷却に関するもの

<ウ> モーターの組立(配列)・位置

<エ> モーターと風量・風向・風の流れの関係

<オ> モーターの回転とペラ(ファン)についで

(3) 能率・効率に関するもの

<ア> 減圧・起熱と回転体の出力

<イ> 循環ファン・起熱ファンによる減圧平衡・加熱・循環と熱交換器を通しての空気の導入排出等のワンパワーシステムに関するもの

<ウ> 減圧作用と被乾燥物の水分移動について

<エ> 熱源ヒーター・湿式乾燥との併用に関するもの

(4) 被乾燥物との関係

<ア> 被乾燥物と減圧・起熱及びその装置との関係

<イ> 被乾燥物とチャンバーの大小・通風・風量・風向の関係

<ウ> 被乾燥物とチャンバーの構造

(三) 被告は原告に対し、次のとおり、ノウハウの開示を行った。

昭和五九年五月一日及び同月二日、原告代表取締役浜平、原告取締役浜衛に対し、アメリカ合衆国マサチューセッツ州所在の株式会社クボヤマ・オブ・アメリカにおいて、別紙本件発明目録の本件発明欄記載の発明(以下「被告発明」という。)及びノウハウに関して、その特色、基本構成、製造方法、適用分野並びに具体例あるいはその市場性等につき、詳細に説明した。

同月三日、アメリカ合衆国マサチューセッツ州所在の久保山事務所において、イラスト、模型等を使用して、ノウハウの開示を行った。

その際、被告から原告に被告発明及びノウハウの基本構成に関するイラストが数十枚交付された。また、被告発明を熱源として利用する場合のエアビック技術システムに関する資料、エアビックの商標権、商標デザイン各種が、被告から原告に交付された。その後も、被告は原告に対し、電話、ファックス、郵便等により、被告発明及びノウハウに関する技術情報を提供し、技術指導を行った。

(四) 原告は、右条項に反し、左記のとおりノウハウを第三者に漏洩した。

(1) 原告は、昭和五九年八月ころ、被告に無断で、原告方あるいは合名会社大坪鉄工所(以下「大坪鉄工所」という。)方において、大坪康秀らに対し、被告発明に関する図面、資料、試作品、その他右発明に関する技術、情報、知識等を開示して、ノウハウを漏洩し、大坪鉄工所に別紙第一物件目録記載の木材乾燥機及び海苔乾燥機を製造させた。また、大坪鉄工所は、右ノウハウを特許申請している。

(2) 原告は、昭和五九年九月ころ、原告方あるいはエル電子機械株式会社(以下「エル電子機械」という。)方あるいは株式会社山益製作所(以下「山益製作所」という。)方において、ノウハウをエル電子機械の益田昇、山益製作所の岡村邦康らに開示、告知して、エル電子機械、山益製作所らに別紙第二物件目録一ないし五記載の各装置等を製造させた。また、岡村邦康名義で、ノウハウに関する技術につき、特許出願、実用新案出願されている。

(3) 原告は、昭和五九年一二月ころ、株式会社関根製作所方において、同社の技術者に対し、被告発明に関する情報、知識、技術等のノウハウを伝授、指導して、オムニ・ドライ・システムなる乾燥機(フレッシュドライ乾燥機)及びゴルフ場専用乾燥機を製造、販売させた。

(4) 原告は、株式会社村山製作所に本件ノウハウを開示し、昭和五九年九月四日、村山製作所が、ミハマグループとして、新潟日報に乾燥機の宣伝をした。また、昭和六〇年二月四日には、読売新聞紙上に「空気を摩擦して熱風に」と称して、本件乾燥機等を発表した。

(5) 原告は、新潟の有限会社エアービック工業に、ミハマグループとして製造させた。

(五) 原告あるいは原告の役員・従業員が秘密を第三者に漏洩し、その第三者が製造・販売した機器は一二機種あるので、原告は被告に対し、少なくとも一二億円の損害賠償金を支払う義務を負う。

(原告の認否及び反論)

(一) 昭和五七年一一月一〇日付念書があることは認めるが、右念書にはノウハウの特定がなく、ノウハウと被告主張の違反行為との対応が不明である。

そもそも、原告は、被告からは何ら秘密、ノウハウの開示を受けていないのであるから、何らの秘密保持義務を負っていない。被告主張に係るノウハウは、特許出願に関する公開された資料に記載されたものであり、秘密事項を含むものではないので、原告は、秘密保持義務、漏洩避止義務を負わない。また、原告はノウハウの漏洩もしていない。

(二) 被告は、後記昭和五九年六月二三日付通常実施契約により、原告が製造する減圧平衡加熱装置等につき、他二社に実施させること及び原告のグループにおいて製造、販売することを承認しており、被告は、原告がこれらの者に対してノウハウを開示することをあらかじめ承諾していた。

(三) 本件合意解約により、右念書は解除されて、効力を失った。

(四) 右念書に記載された右損害額は何らの根拠のない金額であり、算定根拠が不特定、不明確であるから、契約としての効力を生じ得ない。右念書の内容は、暴利行為であり、公序良俗に反し無効である。

4  通常実施権設定契約について、原告に債務不履行があったか。

(被告の主張)

(一) 被告と原告とは、昭和五九年六月二三日、被告発明につき、被告が原告に対し、通常実施権を設定する旨の契約(以下「本件実施契約」という。)を締結した。原告は、次のとおり、右実施契約に違反する行為を行った。

(1)<1> 原告と被告とは、「本件発明」に関連する一切の技術・情報・資料・図画又は機械及び装置に関する知識を「本件ノウハウ」とする旨合意した。「本件発明」とは、被告発明のことであり、「本件ノウハウ」には「本件発明」及び「本件装置」(別紙本件発明目録の本件装置欄記載の装置)を含み、開示されたものであるか否かは問わない。「本件発明」に関するノウハウの具体的な内容は、前記3(被告の主張)(二)のとおりである。

<2> 本件実施契約には、左記の条項がある。

第八条

1  原告は被告から開示された「本件発明」及び「本件ノウハウ」はすべて秘密とし、第三者に漏洩してはならない。

2  前項に違反したときは、被告は原告に対して、そのことによって蒙った損害の賠償を請求することができる。また被告は賠償請求とは別に、原告に対する通知・催告を要することなく契約を解除することができる。

<3> 被告は、原告に対し、前記3(被告の主張)(三)のとおり「本件ノウハウ」を開示したところ、原告は、右条項に反して、前記3(被告の主張)(四)のとおり、「本件ノウハウ」を第三者に漏洩した。

(2) 本件実施契約第一〇条では、原告が製造する「本件装置」に関する設計・仕様・形状及び意匠について、被告の文書又は図面による許諾を必

要としているところ、原告は右契約を実施するに当たり、被告の許諾を得ていない。

(3) 本件実施契約第一五条では、広告・宣伝、新聞に対する掲載等は事前にその内容を通知し、被告の事前承諾を必要としているところ、原告は、広告・宣伝に関して、被告の承諾を得ていない。

(4) 本件実施契約第六条では、原告は、被告に対し、実施料算定の根拠となる毎月の「本件装置」の製造数・販売数・販売単位・販売総数・純販売価額等の明細を報告すべきところ、原告は、これらの報告をしていない。

(5) 原告は、被告に対し、本件実施契約書第三条の実施料を支払わない。

(6) 原告は、昭和五九年六月二三日付合意書に定めるグループに関する事前通知に違反し、また、本件実施契約第七条違反の工業所有権取得、第一六条違反の再実施等の債務不履行がある。

(二) 被告の米国の代理人は、昭和六〇年四月二九日付文書にて、原告の義務を履行するように催告するとともに、不履行の場合には、本件実施契約を同年七月三一日をもって解除する旨通告した。さらに、右代理人は、同年五月二四日付文書にて、前記秘密保持義務違反を主たる理由に、前記各契約を解除する旨通知した。

被告の日本における代理人も、同様の文書を同年六月二九日原告に送付し、右書面は同年七月一日原告に到達した。

(三) 被告は、本件実施契約により、原告から以下のとおりの契約金を取得できるはずであったところ、原告の債務不履行による契約解除により、右得べかりし契約金相当の損害を被った。

<ア> 熱源装置 五億円

<イ> 発熱方法及び熱交換装置 五〇〇〇万円

<ウ> 内気外気吸排装置 二五〇〇万円

<エ> 多段ファン付回転体及びこれに接続するもの 三五〇〇万円

<オ> 冷却機能付モーター 二五〇〇万円

<カ> 減圧平衡加熱装置乾燥方法及びその装置 六億五〇〇〇万円

合計一二億八五〇〇万円

(原告の認否及び反論)

(一)(1) 原告と被告とが本件実施契約を締結したこと、第八条に被告主張の記載があることは認めるが、「本件ノウハウ」に一切の技術、情報及び本件発明を含むこと、開示の有無を問わないこと、被告からノウハウの開示があったことは否認する。原告は、被告からは何ら秘密、ノウハウの開示を受けていないのであるから、何らの秘密保持義務を負っていない。被告主張に係るノウハウは、特許出願に関する公開された資料に記載されたものであり、秘密事項を含むものではないので、原告は、秘密保持義務、漏洩避止義務を負わない。原告が「本件ノウハウ」を漏洩したことはない。

(2) 原告と被告とは、秘密保持義務の対象を、被告が開示したノウハウ等に限ること、また、<1>「本件装置」の販売に伴う場合、それに必要不可欠の情報をその顧客に説明する場合、<2>「本件ノウハウ」の開示を受ける前に原告が知っており、かつ、その知っていたことが証明された場合、<3>原告が漏洩する前に既に公知であり、かつ、公知であることが証明された場合は、例外とすることを合意した。

(3) 被告は、前記3(原告の認否及び反論)(二)のとおり、これらの者に対してノウハウを開示することをあらかじめ承諾していた。

(二) 昭和六〇年四月二九日付文書、同年五月二四日付文書を受領したことは認める。同年六月二九日付文書に関しては、認める。

原告は、被告が主張するような債務不履行をした事実はなく、被告主張の損害額も根拠がない。

5  原告の商標使用料債務については、同時履行の抗弁が認められるか。また、右債務は消滅しているか。

(原告の主張)

(一) 商標権についての専用使用権は登録をしなければ効力を生じないところ、被告は専用使用権の登録を怠っており、原告は、同時履行の抗弁により、その設定登録がされるまで、専用使用料の支払をする義務はない。

(二) 被告は、原告にサニーの多額の手形を裏書交付していたが、サニーが倒産し、右手形が決済されなかったため、被告は、原告に対し、昭和五九年六月、本件商標権の専用使用契約に基づく使用料債務を免除した。

(三) 本件商標権につき、昭和六三年三月九日、盛岡地方裁判所遠野支部において譲渡命令が出され、原告が右商標権を取得した。原告は、平成七年七月一三日の本件口頭弁論期日において、右商標権専用使用契約を解除する旨の意思表示をした。よって、使用料支払債務は遡及的に消滅した。

(被告の認否)

原告の主張は争う。

6  相殺により、原告の請求権は消滅したか。

(被告の主張)

(一) 被告は、原告に対し、昭和六二年四月一七日の本件口頭弁論期日及び平成四年一〇月一二日の本件準備手続期日において、(二)<ア>の債権で、(三)(ア)(イ)(ウ)の各債権を右記載の順で対当額にて相殺する旨の意思表示をした。なお、(ア)(イ)(ウ)それぞれについては、各債権中の各手形金債権の履行期の古い順から相殺する。そして、被告は、<ア>の残債権のうち一億円を反訴として請求し、さらに、原告に対し、平成二年二月八日の併合前第五事件口頭弁論期日において、その残債権で(三)(エ)の債権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。

被告は、原告に対し、平成四年一〇月一二日の本件準備手続期日において、仮に、<ア>の債権が認められないときは、(二)<イ>の債権で、(ア)(イ)(ウ)の各債権を右記載の順で対当額にて相殺する旨の意思表示をした。なお、(ア)(イ)(ウ)それぞれについては、各債権中の各手形金債権の履行期の古い順から相殺する。そして、被告は、<イ>の残債権のうち一億円を反訴として請求し、さらに、原告に対し、平成二年二月八日の併合前第五事件口頭弁論期日において、その残債権で(エ)の債権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。

被告は、原告に対し、平成四年一〇月一二日の本件準備手続期日において、仮に、<イ>の債権も認められないときは、(二)<ウ>の債権で(ア)の債権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。

原告の被告に対する請求権は、右相殺の限度で消滅した。

(二) 相殺債権の種類

<ア>秘密保持に関する念書に基づく損害金(前記3) 一二億円

<イ>原告の債務不履行による契約解除に基づく損害金(前記4)

一二億八五〇〇万円

<ウ>商標使用料の未払金請求権(前記二3) 九八〇〇万円

(三) 反対債権の種類

(ア) 約束手形金 一億七一六〇万円

(イ) 約束手形金 一億五七三〇万円

(ウ) 約束手形金 九三三〇万円

(エ) 契約金返還請求権 五七二〇万円

(原告の反論)

相殺の意思表示があったことは認めるが、相殺債権は存在しない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件合意解約に基づく債務の消滅)について

前記第二、二2の事実及び証拠(乙二)によると、次の事実が認められる。

原告は、昭和五七年一一月二〇日から昭和五八年七月二四日の間に、別紙契約一覧表の当事者欄記載の各当事者と、同表の発明の名称及び出願番号欄記載の各発明につき、それぞれ通常実施権設定契約を締結し、右各当事者に契約金として合計六億三五〇〇万円を支払ったが、同年一二月五日、原告と被告及びクボヤマは、右各通常実施契約を合意解約する旨合意した。右合意解約において、<1>右契約金の二〇パーセントに相当する金員合計一億二七〇〇万円を、原告の解約申入れに伴う違約金として、原告は被告及びクボヤマに返還を求めないこととし、<2>被告及びクボヤマは、原告に対し、右契約金の八〇パーセントに相当する五億〇八〇〇万円を返還することとし、その支払のため、右合意解約の当日、被告から原告に対し、サニー振出しの本件手形三六通が裏書交付された。なお、本件全証拠によるも、被告が本件手形を裏書交付したことにより、右合意解約に伴う支払義務を消滅させる旨の合意がされたと認めることはできず、この点の被告の主張は失当である。

二  争点2(消滅時効)について

被告は、原告に対し、右契約金返還請求債務の支払のために、本件手形を裏書交付し、原告は、これを了承していることに照らして、返還債務の履行期は、本件手形の各支払期日とする旨の合意があったと認められる。そうすると、第五事件における請求権の履行期は、最も早いものが昭和五九年六月一〇日であるところ、右事件に係る訴え提起は平成元年六月七日であるから、消滅時効は完成していない。この点の被告の主張は失当である。

その他、被告は消滅時効に関してるる主張するがいずれも理由がない。

三  争点3(秘密保持に係る念書に基づく損害賠償請求権)について

1  証拠(甲一三ないし一五、乙六、八、一一ないし一三、一五)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆す証拠はない。

(一) 原告は、被告に対し、昭和五七年一一月一〇日付念書(以下「本件念書」という。)を差し入れており、右念書において、原告は、被告が有する減圧平衡乾燥機の製造に関するノウハウの開示を受けたことに関し、<1>ノウハウは秘密とし、第三者に漏洩しないこと、<2>原告又は原告の役員・従業員が、秘密を漏洩して、第三者が、ノウハウの全部又は一部を使用し、若しくはノウハウに類似した方法・作用を有する乾燥機その他の機器を製造又は販売した場合には、一機種(用途、性能、容量、のいずれかが異なるごとに一機種とする。)ごとに一億円及び販売又は製造台数に市販価額の五パーセントを乗じた金額を合算した額を、損害賠償として支払うことを約束した。

(二) 原告は、昭和五九年八月三〇日、山益製作所とミハマワンパワーシステム(減圧平衡加熱法)を使用した茶及び茸乾燥機の製造販売を許諾する旨の契約を締結し、山益製作所は紙管(縦型、横型)乾燥機、発泡スチロール真空熱風乾燥機、水産物真空熱風乾燥機を製造、販売した。昭和五九年九月五日、大坪鉄工所とミハマワンパワーシステムを使用した海苔乾燥機及び木材乾燥機の製造、販売を許諾する旨の契約を締結し、大坪鉄工所は、減圧式木材乾燥機を製造、販売した。また、エル電子機械ミマス製作所は、ミマス野菜真空熱風乾燥機、ミマス減圧乾燥機、ミマス回転ドラム型真空熱風乾燥機を、製造、販売した。さらに、山益製作所の岡村邦康は、昭和五九年から昭和六〇年に掛けて、密閉製茶方法等の発明につき特許出願及び実用新案登録出願し、益田昇も、昭和五九年、岡村邦康を発明者ないしは考案者として、製茶用乾燥装置等の乾燥装置につき、特許出願及び実用新案登録出願している。大坪鉄工所も、昭和五九年に、木材乾燥装置等の乾燥装置に関する発明を特許出願している。なお、原告の取締役である浜衛を発明者として、昭和五九年四月に、送風機に関する発明が特許出願されている。

(三) 被告は、後記四のとおり、原告に対し、被告発明につき通常実施権を設定したが、昭和五九年七月一四日付ファックス文書で、ワンパワーシステムの日本国内における通常実施について、原告において、各メーカーに実施させるように手配してほしい旨依頼していることに照らすと、被告は、原告が、日本国内の企業に対し、被告発明につき再実施を許諾することを承諾していたと認められる。

2  右認定した事実を前提として、被告の秘密保持に係る本件念書に基づく請求権の存否について検討する。

本件念書において、ノウハウは、「末尾記載の特許出願中の書類に記載された情報及びこれに関し、説明を受けた情報」と定義されているが、他方、本件念書の末尾にはノウハウの特定に関する記載はない。したがって、原告が秘密保持義務を負うノウハウの範囲は、必ずしも明らかではない。なお、特許出願中の書類に記載された右発明に関する情報については、特許出願書類における特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載事項は、出願公開によって公知となるものであるから、少なくとも、右の事項は秘密保持義務の対象と解することはできない。

ところで、原告は、山益製作所及び大坪鉄工所に、ミハマワンパワーシステムを使用した乾燥機の製造、販売を許諾し、山益製作所及び大坪鉄工所が乾燥機を製造、販売したこと、エル電子機械ミマス製作所が、乾燥機を製造、販売したこと、大坪鉄工所等が、乾燥装置等につき特許出願及び実用新案登録出願したことは前記のとおりである。

しかし、本件全証拠によっても、被告が原告に対して開示したノウハウの内容、開示したノウハウが秘密保持義務の対象となるか否か、原告が第三者に対して開示した技術の内容等の詳細は明らかでなく、そうとすると、原告には、本件念書所定の秘密保持義務の違反があったと解することはできない。

のみならず、仮に、原告が、秘密保持義務の対象となるノウハウを第三者に開示した点があったとしても、被告は、原告が被告発明について右再実施を許諾するに際して、原告が各企業に対し、被告発明に関する情報を開示することを、当然に承諾していたと解するのが自然であるから、右事情からも、原告の行為が本件念書で定めた秘密保持義務に反した行為と評価することはできない。

よって、秘密保持に係る本件念書に基づく被告の主張は理由がない。

四  争点4(本件実施契約の債務不履行による損害賠償)について

1  証拠(乙七の一及び二、九の二及び三、一〇、一四)及び弁論の全趣旨によると、以下のとおりの事実が認められ、これを覆す証拠はない。

(一) 原告と被告とは、昭和五九年六月二三日、本件実施契約を締結したが、右契約には以下の条項がある。

第一条

1  「本件発明」とは、被告が開発し特許出願中の被告発明をいう。

2  「本件ノウハウ」とは、「本件発明」に関連する一切の技術情報・資料・図面又は機械及び装置に関する知識をいう。但し、乾燥物の乾燥方法等の「本件装置」の利用方法(ソフトウエアー)は含まない。

3  「本件装置」とは、「本件発明」に包含される装置・機器等のうち、被告が原告に製造・販売を認める別紙本件発明目録の本件装置欄記載の装置をいう。但し、被告がこの契約により特約した場合は、被告が指示し、かつ被告が了承した設計・仕様による右装置(装置の意匠・形状についても被告が指示しかつ了解したものに限る)をいう。

第二条

1  被告は原告に対して、「本件発明」に基づき日本国内において「本件装置」を製造し、又は販売する通常実施権を付与し、原告は被告に対して、付与された実施権の範囲内において「本件装置」を製造し販売することを約した。

2  原告が製造・販売できる製品は「本件装置」のみとし、原告は「本件発明」及び「本件ノウハウ」を使用又は実施して、「本件装置」以外の製品を製造し、又は販売してはならない。

第三条

1  原告は被告に対して、実施権付与の対価として、契約金(但し、契約金の金額は未定である。)及び毎月の「本件装置」の「純販売価額」の五パーセントに相当する実施料を支払うことを約した。

2  原告は、前項の契約金及び実施料を支払う(但し、契約金及び実施料の支払方法は未定である。)。

第六条

1  原告は毎月の「本件装置」の製造数・販売数・販売単価・販売総数・純販売価額を実施料総額の明細として記載し、翌月(日にちは未確定)までに被告又は被告の指定する者に通知しなければならない。

第七条

1  原告が「本件装置」に関し、改良した考案又は発明をしたときは、無償で被告にその内容を開示し、被告又は被告の指定する者と持ち分を均等とする共有で工業所有権取得の手続をしなければならない。

第八条

1  原告は被告から開示された「本件発明」及び「本件装置」を含む「本件ノウハウ」はすべて秘密とし、第三者に漏洩してはしてはならない。但し、次の場合はこの限りではない。

<1> 「本件装置」の販売に伴う場合、それに必要不可欠の情報をその顧客に説明する場合。

<2> 「本件ノウハウ」の開示を受ける前に原告が知っており、かつその知っていたことが証明された場合。

<3> 原告が漏洩する前に、既に公知であり、かつ公知であることが証明された場合。

2  原告が前項に違反したときは、被告は原告に対して、そのことによって蒙った損害の賠償を請求することができる。

第一〇条

1  原告は「本件装置」を被告が文書又は図面で許諾した設計・仕様・形状及び意匠で製造・販売するものとし、被告が文書又は図面で承諾したもの以外の仕様・形状・意匠で製造・販売してはならない。

第一五条

原告は「本件ノウハウ」・「本件発明」又は「本件装置」に関連ある事項を新聞その他の手段で宣伝し、広告し、又は学会へ発表する場合等公表するときは、事前に被告の承諾を得なければならない。

第一六条

1  原告は、「本件発明」の実施権に基づく再実施をしてはならない。但し、被告の許諾があったときは、この限りではない。

(二) なお、原告と被告とは、昭和五九年六月二三日、本件実施契約に関して、以下の合意(以下「本件合意」という。)をした。

第二条

本件実施契約に伴う契約金あるいは最低保証実施料については、本件実施契約成立の日から一年経過後三〇日以内に、原告、被告双方協議して決定する。

第三条

本件実施契約に基づく製造、販売は、原告の責任において原告のグループが行うことを被告は認める。但し、右グループの名称、内容、範囲等につき、原告は被告に事前に通知しなければならない。

(三) 被告の米国における代理人が原告に対し、昭和六〇年四月二九日付書面で、本件実施契約で定められた原告の義務を履行するよう催告したところ、原告代理人から被告の右代理人に対し、同年五月二〇日付書面で、原告には、右書面で指摘されたような義務の不履行はない旨回答した。これに対し、被告の右代理人は原告に対し、同月二四日付書面で、原告の秘密情報保持義務違反等により、本件実施契約を解除する旨通知したが、右原告代理人から被告の右代理人に対し、同月三一日付書面で、原告には右書面で指摘されたような義務違反はなく、本件実施契約の解除は無効である旨反論がなされた。その後、被告の日本における代理人から原告に対し、同年六月二九日付書面で、原告には本件実施契約及び本件合意で定められた義務の違反があるので、右義務を履行するように催告するとともに、同年五月二四日付書面による本件実施契約解除の効果は維持する旨通知した。

2  右認定した事実を前提として、原告に本件実施契約第八条所定の秘密保持義務の不履行があったか否かにつき検討する。

(一) 本件実施契約では、一条で、「本件ノウハウ」とは、「本件発明」(被告発明)に関連する一切の技術情報・資料・図面又は機械及び装置に関する知識と定義され、第八条で、原告は、被告から開示された「本件発明」及び「本件装置」を含む「本件ノウハウ」すべてにつき、秘密保持義務を負う旨定められている。しかし、「本件発明」(被告発明)はいずれも昭和五七年から昭和五九年に掛けて特許出願され、その発明に係る特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された情報は、いずれも出願公開により公知なものとなるのであるから、「本件発明」(被告発明)のうち、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された事項は、秘密保持義務の対象となる「本件ノウハウ」には含まれないと解するのが相当である。

(二) 原告が、山益製作所及び大坪鉄工所に、ミハマワンパワーシステムを使用した乾燥機の製造、販売を許諾し、山益製作所及び大坪鉄工所が乾燥機を製造、販売したこと、エル電子機械ミマス製作所が、乾燥機を製造、販売したこと、大坪鉄工所等が、乾燥装置等につき特許出願及び実用新案登録出願したことは、前記三1(二)のとおりである。

しかし、本件全証拠によっても、被告が原告に対して開示したノウハウの内容、開示したノウハウが秘密保持義務の対象となるか否か、原告が第三者に対して、開示した技術の内容等の詳細は明らかでなく、そうとすると、原告には、本件実施契約所定の秘密保持義務の違反があったと解することはできない。

のみならず、前記三1(三)のとおり、被告は、原告が被告発明につき再実施を許諾するのに伴い、被告発明に関する情報を開示することも承諾していたと認められることから、仮に、原告が秘密保持義務の対象となる「本件ノウハウ」を、右第三者に開示していたとしても、右行為は第八条に違反するとは認められない。

よって、原告に本件実施契約第八条につき債務不履行があったとは認められない。

3  次に、原告に、本件実施契約第三条、第六条、第七条、第一〇条、第一五条、第一六条及び本件合意所定の債務不履行があったか否かについて検討する。

前記のとおり、原告が、「本件発明」(被告発明)につき、第三者に再実施を許諾したり、原告取締役が送風機に関する特許出願を行ったほか、原告は、本件発明を利用した装置に関するパンフレットを作成したり(乙五)、昭和五八年四月二六日付日刊工業新聞、昭和五九年五月一四日付日刊工業新聞及び昭和六〇年二月四日付読売新聞に、原告の被告発明を利用した装置の開発、販売に関する記事が掲載されたり(乙四)している。

しかし、前記のとおり、原告は、再実施の許諾につき被告の承諾を得ていたこと、原告は、被告に対し、被告発明に関する日本国内企業への再実施許諾の経過等につき、随時報告していること(甲二〇、二二)、前記1(三)の被告の代理人と原告代理人間の本件実施契約解除に至るまでの経緯等を総合考慮すると、原告に本件実施契約違反又は本件合意違反があったと認めることはできない。また、前記新聞記事は、原告が自主的に掲載した広告、宣伝ではない。さらに、原告取締役が特許出願した送風機の発明は、「本件装置」に関して、原告が改良した考案又は発明であるとは認められない。

4  よって、原告が本件実施契約に違反した旨の被告の主張はいずれも理由がない。

五  争点5、6(商標使用料、相殺)について

被告は、昭和五九年五月一日、原告に対し、本件商標権につき、専用使用権を設定したが、専用使用権設定登録がされないまま、本件商標権につき、盛岡地方裁判所遠野支部の昭和六一年六月二四日付差押命令を原因として、同年八月二五日、差押登録がされ、昭和六三年三月九日、同支部の譲渡命令により、原告は本件商標権の譲渡を受けた(甲二五、三二)。したがって、被告の債務は履行不能となり、原告の専用使用権設定契約解除の意思表示により、本件商標権の使用料債務は消滅した。

よって、被告の商標使用料の主張は理由がない。

また、前記のとおり、被告主張に係る相殺債権は発生していないから、被告の相殺の抗弁も失当である。

六  以上のとおり、原告の主張は理由があり、被告の主張は失当であるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

約束手形目録一

一、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和五九年九月一〇日

支払地 四日市市

支払場所 商工組合中央金庫四日市支店

振出地 四日市市

振出日 昭和五八年一二月五日

振出人 株式会社サニー

受取人 久保山信義

第一裏書人 右同

被裏書人 白地

第二裏書人 株式会社ミハマ製作所(取立委任のため)

被裏書人 株式会社八十二銀行

二、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和五九年一〇月一〇日

三、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和五九年一一月一〇日

四、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和五九年一二月一〇日

五、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六〇年一月一〇日

六、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六〇年二月一〇日

七、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六〇年三月一〇日

八、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六〇年四月一〇日

九、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六〇年五月一〇日

一〇、金額 金一、四三〇万円、

支払期日 昭和六〇年六月一〇日

一一、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六〇年七月一〇日

一二、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六〇年八月一〇日

二、ないし一二、の約束手形の他の手形要件裏書人・被裏書人は一、の約束手形と同じ

約束手形目録二

一 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六〇年九月一〇日

支払地 四日市市

支払場所 商工組合中央金庫四日市支店

振出地 四日市市

振出日 昭和五八年一二月五日

振出人 株式会社サニー

受取人 久保山信義

第一裏書人 右同

被裏書人 白地

第二裏書人 株式会社ミハマ製作所(取立委任のため)

被裏書人 株式会社八十二銀行

二 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六〇年一〇月一〇日

三 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六〇年一一月一〇日

四 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六〇年一二月一〇日

五 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六一年一月一〇日

六 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六一年二月一〇日

七 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六一年三月一〇日

八 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六一年五月一〇日

九 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六一年六月一〇日

一〇 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六一年七月一〇日

一一 金額 金一四三〇万円

支払期日 昭和六一年八月一〇日

二、ないし一一、の約束手形の他の手形要件.裏書人.被裏書人は一、の約束手形と同じ

約束手形目録三

一、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六一年九月一〇日

支払地 四日市市

支払場所 商工組合中央金庫四日市支店

振出地 四日市市

振出日 昭和五八年一二月五日

振出人 株式会社サニー

受取人 久保山信義

第一裏書人 右同

被裏書人 白地

第二裏書人 株式会社ミハマ製作所(取立委任のため)

被裏書人 株式会社八十二銀行

二、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六一年一〇月一〇日

三、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六一年一一月一〇日

四、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六一年一二月一〇日

五、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六二年一月一〇日

六、金額 金一、四三〇万円

支払期日 昭和六二年二月一〇日

七、金額 金七五〇万円

支払期日 昭和六二年三月一〇日

支払地 名古屋市

支払場所 株式会社三井銀行名古屋駅前支店

二、ないし七、の約束手形の他の手形要件、裏書人、被裏書人は

一、の約束手形と同じ

契約一覧表

契約締結日 発明の名称及び出願番号 契約金 当事者

1 昭和57年11月20日 発熱方法及び熱交換装置 57-177508 57-177509 金5,000万円 (株)クボヤマ (株)クボヤマ

2 昭和58年2月28日 多段フアン付回転体 57-055089 金2,500万円 (株)クボヤマ

3 昭和58年2月28日 減圧平衡摩擦熱発生機構 57-064941 における内気外気吸排装置 金2,500万円 (株)クボヤマ

4 昭和58年3月3日 冷却機能付モーター 57-021982 金2,500万円 (株)クボヤマ

5 昭和58年4月15日 多段フアン付回転体 57-55089 に接続するもの 金1,000万円 (株)クボヤマ

6 昭和58年7月28日 熱源装置・乾燥装置 被告

7 昭和58年7月24日 熱源装置 金5億円 被告

本件発明目録

本件発明 本件装置

名称 出願番号

(1)熱源装置 (2)発熱方法および熱交換装置 (3)減圧平衡摩擦熱発生機構における内気外気吸排装置 (4)多段ファン付回転体 (およびこれに接続するもの) (5)冷却機能付モーター (6)減圧平衡加熱装置乾燥方法およびその装置

59-05837 57-177508 57-177509 57-064941 57-055089 〃 57-021982 55-132066

発熱装置 減圧平衡・発熱方法およびその装置 熱乾燥装置 熱乾燥装置 〃 乾燥用起熱装置 乾燥装置

第一物件目録

一、図面の説明

1乾燥室 3減圧平衡発熱部 5ケーシング 6回転体

7排気用ダクト 11吹出しダクト 12a・13a正逆ファン

14外気吸入用ダクト 17開閉部 18温度センサー 20制御器

21加湿器

第一図は木材乾燥装置の斜視図、第二図は同じく平面図、第三図は同側面図である。

二、本物件の構造

(一) 乾燥室1の前壁部には開閉扉2が設けられ、同乾燥室1の一側に配設された減圧平衡発熱部3・4があってともに同構造で、それぞれ管状ケーシング5内に複数の回転体6を収納して形成されている。一方の発熱部4は単なる熱源として設けられたものであるが他方の発熱部3の上端排気部には排気用ダクト7が接続されており回転体6の排気作用により乾燥室内1を減圧状態に保持する。

(二) すなわちダクト7は乾燥室1外へ延出しており、回転体6がモーターM1により駆動されて回転するとケーシング5にその下部から吸入された空気はダクト7を通り排気口部8から排出され乾燥室内1は減圧状態となる。

(三) 11は乾燥室1内の側壁部に配設された薄箱状吹出しダクトであって、その前面には吹出し孔11aが多数形成されている。12・13は各ダクト11の側部に形成された空気出入部23に装着された正逆ファン部であって、両ファン部12・13は互いに対向させて配設されている。

(四) 14は乾燥室1内に外気を補給させるための外気吸入用ダクトで、15は熱交換器、16はこの熱交換器15の下部に開設された14のダクトの外気吸入部である。

(五) 17はダクト14を開閉するための開閉部としてのダンパーであって、このダンパー17を開くと外気は吸入口16から吸入されてダクト14を通り乾燥室1内に流入するが、その途中の熱交換器15においてダクト7を通って乾燥室1外へ排出される暖かい空気の熱を奪って昇温される。

(六) 18・19は乾燥室1の両側部に設けられた温度センサーであって制御器20に接続されている。上記ダンパー17の開閉駆動用モーターM2はこの制御器に接続されており、乾燥室1内の温度が設定温度よりも高くなるとモーターM2駆動しでダンパー17を開き外部の乾燥した空気を乾燥室1内に導入する。

(七) また乾燥室1内の温度が設定温度より低くなると、モーターM2を駆動してダンパー17を閉じ外気の導入を停止する。21は噴霧器から成る加湿器であって制御器20により制御されるものであり、乾燥室1の温度が設定温度より低くなるとパイプ22を通して乾燥室1内に水蒸気を補給する。

三、本物件の加熱方法

(一) 前記二のような構造においてモーターを駆動して発熱部3・4の各回転体6を回転させるとケーシング6からの放熱により周辺の空気は暖められる。

(二) また発熱部3の排風作用により乾燥室1内は減圧状態となる。ファン12aを正回転、ファン13aを逆回転させると両ファソ12a・13aの間において空気はファン13aに向かって流れ、第二図において下側のダクト11に入り、その中を通って吹出し孔11aから吹出し、乾燥室1内を横断して上側のダクト11に入り、右ダクト11を通ってファン12aにより吹き出され、再びファン13aによりダクト11に吸入される。すなわち空気は第二図において破線矢印にて示すループを循環し乾燥が行われる。

(三) 次にファン12aを逆回転させ、またファン13aを正回転させると、空気は矢印(ロ)にて示すようにファン13aからファン12aへ向かって流れ、空気は前記(二)とは逆に実線矢印にて示すループを流れて乾燥させる。

(四) このように各ファン12a・13aを交互に正逆回転させれば、左右方向(第二図においては上下方向)から交互に暖かい空気が吹きつけられることとなり、木材等をばらつきなく均一に乾燥させることが出来る。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第二物件目録一

一、図面の説明

1乾燥室、2扉、3乾燥棚、4起熱ユニット、5ケーシング、6回転体、7モータ、8外気吸入弁機構、9排気口、10循環送風機、11外気熱交換機

第1図は全体斜視図、第2図は第1図の扉を開いた状態の一部切欠図、第3図は第1図の側断面図、第4図は第1図の正断面図、第5図、第6図は起熱ユニット

二、本物件の構造及び加熱方法の説明

(一) 密閉された直方体の乾燥装置Aには、被乾燥物を収納しこれを乾燥させるための乾燥室1と、一方を乾燥室1に他方を排気口9に接続させた起熱ユニット4と、外気を乾燥室1内に取り入れる外気吸入弁機構8及び乾燥室1内の加熱空気を循環させる循環送風機10を備えている。

そして、起熱ユニット4は、ケーシング5同志を三個連結して構成してあるが、各ケーシング5内にはモータ7及びこのモータ7により回転する回転体6とを備えている。

(二)本物件による加熱方法

モータ7の回転により回転体6を回転させ、この回転作用により乾燥室1内の空気を強制吸引して乾燥室1外に排出して乾燥室1内を減圧し、該乾燥室内外の圧力差を略平衡に維持したまま引き続き前記回転体6の回転作用を継続させると、この回転体6と空気との摩擦作用により摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により乾燥室1内を加熱して該乾燥物を乾燥させる減圧平衡加熱方法である。

なお、循環送風機10により、乾燥室1内の加熱された空気を強制循環している。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

第二物件目録二

図面の説明並びに本物件の構造及び加熱方法の説明は物件目録一と同一であるが、本物件は第2図、第3図のように扉2の内張、乾燥室1内の棚3の形状並びに外気吸入弁機構8及び排気口9の取付装置が物件目録一の第2図、第4図と異なる。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

第二物件目録三

一、図面の説明

第1図は全体斜視図、第2図は第1図の一部側断面図、第3図、第4図は起熱ユニット。

二、本物件の構造の説明

本物件の構造及び加熱方法の説明は物件目録一と同一であるが(但し、乾燥棚3は欠如)、本物件の乾燥装置Aは第1図第2図記載のようには回転自在な円筒形状とし、その乾燥皇1内には、二連の起熱ユニット4を二箇所に設けると共に、循環送風機10を乾燥室1の中央に設けてある。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第二物件目録四

図面の説明並びに本物件の構造及び加熱方法の説明は物件目録三と同一であるが本物件は第2図記載のように二連の起熱ユニット4を乾燥室1内に一箇所設けると共に、循環送風機10を乾燥室1の下端に設けてある。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4函

<省略>

第二物件目録五

一、図面の説明

1乾燥室、2扉、3欠、4起熱ユニット、5ケーシング

6回転体、7モータ、8、吸気口、9排気口

10循環送風機、11熱交換器

第1図は扉を開いた状態の全体斜視図、第2図は第1図の横断面図、第4、5図は起熱ユニット

二、本物件の構造及び加熱方法の説明

(一)本物件の構造

密閉した乾燥室Aには、被乾燥物を収納しこれを乾燥させる乾燥室1と、一方を乾燥室1に他方を排気口9に接続させた起熱ユニットと、乾燥室1内の加熱空気を循環させる循環送風機10を備えている。

そして、起熱ユニット4は、ケーシング5同氏を三個連結して構成してあるが、各ケーシング5内にはモータ7及びこのモータ7により回乾する回転体6とを備えている。

(二)本物件による加熱方法

モ タ7の回転により回転体6を回転させ、この回転作用により乾燥室1内の空気を強制吸引して乾燥室1外に排出して乾燥室内を減圧し、該乾燥室1内外の圧力差を略平衡に維持したまま引き続き前記回転体6の回転作用を継続させると、この回転体6と空気との摩擦作用により摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により乾燥室1内を加熱して被乾燥物を乾燥させる減圧平衡加熱方法である。

なお、循環送風機10により、乾燥室1内の加熱された空気を強制循環している。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

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